高瀬隼子さんの芥川賞受賞作品。
楽しい気分にはなりませんが、文句無しに面白い小説でした。
誰かの献身で成り立つ社会の中、着実に溜まっていく澱のような暗い感情はあるはずで、
それが登場人物の少し意地悪な言葉や行動に表れることに、読んでいて非難よりも共感してしまう。
そういう自分もきっと程度の差こそあれ、暗い感情を抱えたことがある人間なんでしょうね。
すごく気が利いて奉仕の心に溢れて優しく穏やかな人間に見えても、
その人間の弱さや脆さで割を食う、そんな利害のある立場にいれば、
その奉仕はただの穴埋めに過ぎないと感じるでしょう。
それでは埋まり切らないどころか、
穴埋めの行為そのものが気持ちを逆撫ですることもあるはず。
どういう職場で働いてきたか、どういう人と接してきたか、今どういう立場にあるか。
それらによってこの小説の毒性みたいなものは変わるかもしれません。
でも、ここに込められた切実な軋みは多くの人に伝わるはずだと思います。
善意らしきものに無理して笑みや賛辞を返さねばならない時に、
感じる釈然としない思いを誰かと共有したい時ってありますよね。
でも、陰口みたいになったり、
善意らしきものが相手である以上、
自分の言葉がまるで悪意のように見えてしまったりするんですよね。
世間が礼を強要するような奉仕と、まるで黙殺されているように続く献身。
いわゆる職業小説ではなく職場小説として、
惹かれずにはいられない恐ろしさと面白さを兼ね備えた小説でした。
きっと、恐ろしいから面白いし、面白いから恐ろしいんだと思います。