私家版が主に独立系書店などで話題になっていましたが、
エッセイを17篇も追加収録して商業出版されました。
都会に一人佇む時の不安、誰かの傍にいる時にも自分のことをあれこれ考えてしまう感覚、
そういった誰もが感じていて、それでも気づかないふりをしたり忘れてしまう想いを掬い上げて、
言葉に表しているように思います。
共感を得たいわけではなくて、
でも、誰かも同じ気持ちを抱えていることだけは感じたいってことが私には時々あります。
そんな時にこの本が遠い場所から、うっすらと温かみをもたらしてくれるかもしれません。
私家版でのヒットを受けての、この本には新たに収録されたものも多く、
私家版から収録されていたエッセイでの心の揺らぎや落ち着かなさが
ゆっくりと癒されていった様子を感じました。
誰かにとって言い表わさずに済ませてしまった感情や記憶に近いものが、
この本の中では温度を感じられるくらいの繊細さで表されています。
また、心や景色の瞬間を切り抜く大胆さに、読んでいてハッと驚くこともありました。
戸惑いややり切れなさですら、言葉に残すことで誰かの心に寄り添うことがある。
そんなことを感じる一冊です。