• 四十代夫婦が綴る書評と雑記
この部屋から東京タワーは永遠に見えない [ 麻布競馬場 ]

Twitterやnoteで発表された小説の数々を収録。

麻布競馬場による、都市生活小説群という感覚でした。

東京の様々な街のイメージをいじわるな視点で描き出し、

その書き出された小説をなんとなく捉えられる読者も、

やはりそのいじわるなものを胸に抱えていることが浮き彫りになるようです。

憐み、蔑み、羨望、失望、色々な負の感情が込められていますが、最も強く感じたのは虚しさ。

誰かを羨んだり、羨まれることを望んだり、満たされない日々を東京で送る中で、

募る虚しさが短い一編一編から伝わりました。

六本木なんてライブを見に行くだけの場所、

芝浦はモノレールからの景色でしか知らない、

清澄白河には行ったこともない、そんな私にすら響くものがあります。

「キツネカフェ」「カーサブルータス」「東京カレンダー」等の固有名詞をうまく利用しているのも、

街をモチーフに織り込むのと同じ効果。

そこにあるイメージは、感情を描き出すために存分に活かされます。

北海道の田舎で生まれ、都心から離れた場所で暮らす私には鼻につくことも多かったのですが、

その鼻につくことも含めてのこの本なのだ、と読み終えてズンと重さを持って伝わります。

重さが抗いようのない天災や時流ではなく、

生活や選択という自分の至近な場所で生じる感覚である故に、

重量に妙なリアリティがあって、胸の中で虚しさやら悔いやらが、プスプスと燻るのです。

一編ごとの短いページ数に油断していると、思いもよらない場所を抉られるかも。

知らず知らずプライドを持っていた部分、コンプレックスに蓋をしていた箇所、

読んで痛んでから気づくこともありますよね。


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