著者初の児童小説。
高橋源一郎に対しては、なかなか癖のある小説を書くイメージがありましたが、
そういえば宮沢賢治を題材にした作品もありましたね。
読んでみると、柔らかな語り口で子どもたちにとって特別な季節である夏を切り抜いた、
なんとも真っ当な児童小説でした。
これ、本当に意外だったんですよね。
おぉ、ストライクゾーンにこんなに綺麗な回転のストレートを投げ込んでくるの? って感覚。

朝日小学生新聞での7月1日から9月30日という連載期間が存分に反映された内容です。
夏の鎌倉を舞台にしたファンタジー。
戦争の悲しみ、
人や犬やぬいぐるみが織りなす温もり、
夏休みの大きな成長。
長い休みに小学生が読んで、心にとどめて欲しいものが詰まっています。
ただ、うーん……説教めいたものを否定するような序盤であったのに、
中盤からやや説教めいたものを感じるのは、テーマとして致し方ない部分ではありますが、
ならば序盤のノリは必要ないのではないか、とは思いました。
近代文学好きとしては、途中で出てくる文士たちの描写が嬉しいです。
詳しく言及されなくとも、鎌倉で文士たちとくれば文学好きなら思い当たるメンバーたちです。
ただ、正直なところ、この本の一番の魅力は、
高橋源一郎の小説を何倍にも魅力的なものにしている今日マチ子の挿絵。
かわいらしい絵柄がこの小説のわくわくする場面をさらに胸踊るものにし、
シリアスな場面の辛さを和らげつつも胸に染み渡らせやすくする効果を感じます。

