「アトミック・ボックス」の続編にあたる。
とはいえ、「アトミック・ボックス」未読でも問題ないはず。
当の私がその状態だったし、この小説は単独でしっかり成立していていて、
前作から引き続き登場しているであろう人物たちも
この小説のみで明確に性格や価値観が伝わります。

途中、やや勢いが削がれるような箇所があるのですが、
展開上、必要なものだというのは読み進めれば納得できます。
その箇所以外はグイグイと惹き込まれ、翻弄されるし興奮もして、
知的好奇心が刺激されつつ冒険の楽しさもあって、何だか激烈な満足感。
タイトルでキトラ古墳の被葬者についての謎が主軸なのかなと想像していたのですが、
まず、その謎についての考察が面白い!
さらに現代で展開される駆け引きや親交が複雑でありながらも明確に整理されていて、
ストレスなく興奮できます。
絡み合う糸を描くような小説は多いですが、
面白さとは別に糸が解ける過程の美しさや滑らかさという魅力の基準はある気がしていて、
この作品はその辺りでも素晴らしいんです。
作中の冒険も勿論ですが、池澤夏樹の知性にも触れるようでワクワクする小説でした。

