この小説における絲山秋子の、留まろうとする気持ちと流される気持ちの表現がすごく良いんです。
意地や矜持、直感や理屈、色んなものが混ざり合って、心も体も動き、言葉は選ばれる。
ほんの数秒の間に起こることにだって、それまでの積み重ねもその場だけの感覚も作用している。
難しい言葉ではなく、どこか淡々と紡がれるような時間にも、奥行きや起伏が感じられて、
読書の楽しさを感じる一冊です。
章ごとに一台の車がクローズアップされているのですが、この描写は正直なところ、
僕にはよくわかりません。きっと車に詳しい人だと物凄く楽しめる要素なのでしょう。
ちなみに表紙の絵は主人公の愛車アルファ145です。
とはいえ、ペーパードライバーで車種に関する知識がほぼ皆無の僕でも、
この本、とても熱中して読めました。
悪し様に言われるカマキリという男が何だか魅力的なんですよね。
何故だろう、この男に感じるのは同情というより、もっと親密なものな気がしています。
興味を持たれた方、是非手に取ってみてください。