先日発表された第169回芥川龍之介賞でも「エレクトリック」で候補となった千葉雅也の初小説。
芥川賞候補には三度なっていますが、この「デッドライン」も候補作品でした。
作品と作者は分けて考えられるべきという前提はありつつ、
作品に作者の教養や知見の分野が色濃く表れることは有ります。
処女作に特にその傾向は強いように思いますが、この「デッドライン」もそういった作品です。
作者が哲学者ということもあってか、
主人公は哲学を学ぶ大学院生です。
この設定が単なる所属や身分だけを表すだけでなく、主人公の存在をも揺さぶっているようです。
研究分野と密接に絡み合うことになる、男として男が性的に好きであるという性質。
これは、女性になりたいというのとは全く異なる意味です。
学問と私生活と経済状況が主人公の立つ場所を揺るがすというのは、
非常に近代文学的な構造だとは感じましたが、
この小説は、作者の本領である哲学が組み込まれる、あるいは哲学というエンジンで動くことによって、
独自性と馬力を得ていました。
正直なところ、哲学に疎い私にはよくわからない箇所もあります。
しかし、先程も述べたように、近代文学的構造が読みを手助けしてくれる部分も大いにあります。
やや後味があっさりし過ぎていて、小説上で伸びていた筋道を途絶させてしまったような印象はありますが、
慣れ親しんでいたはずのものが、新たな動き方をするような面白さを感じる作品でした。
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