第61回文藝賞受賞作品。
恐らく性質に合わない仕事に就き、壊れた人間とイカれた日常。
仕事の描写が克明なわけではなく、社会問題を切々と描き出すといった類でもありません。
もっと個にフォーカスしているように感じます。
イメージとしては、始終、轟音が鳴り響いている感覚。
それが壊れた日常というものなのかもしれません。
とはいえ、勝手に思い描いていたものとは違い、
また心もこうした小説を今は求めていなかったのが正直なところ。
魅力的な文章ではあったし、かつて夢中になった小説に似た感覚もありました。
この文体で、轟音ではなく
もっと音が判別できるような小説を読みたいとは思うのですが、
それはこの作家の本質や使命から離れてしまうことなのかもしれません。
読み手が勝手に思っているだけですが。
きっと20年前の自分であれば、
もっと夢中にのめり込んでいただろうな、と感じました。
20代で仕事の内容、自分の在り様に悩む時、
頭に轟音を鳴らしたい時ってあったように思うのです。
私はそんな時、ストレートに音楽にそういった効能を求めましたが、
もしかしたら文学にもそれは可能なのかもしれません。