柴崎友香さんの作品はけっこう読んでいるのですが、
これも面白いんですよね。
文庫版の表紙もかわいくて良いんですが、
この古本屋でもあまり見かけない単行本のデザインも素敵なんですよ。
一人の新入社員の心持ちを5月から2月まで、
1か月あたり概ね20ページくらいの章立てで綴られていきます。
連載の際も5月号から2月号まで掲載されていた様子。
きっとすごく臨場感がある連載だったろうな、とその試みをリアルタイムで味わえなかったのが残念。
新入社員らしい緊張、油断、弛み、緩み、慣れ、観察。
様々な心や視線の動きが柔らかく心地良い文章で綴られていきます。
途轍もないピンチを陥るといった場面はない、大きな壁にぶつかって乗り越えるといった描写もない。
むしろ、新入社員なのに弛み過ぎではないか、といった場面が多いです。
そして、そういった場面がしっかり主人公の性質と結びついています。
応援したい気にもならないし、勇気付けられもしない。
にも関わらず、心地良く、共に歳月を過ごすようにページをめくってしまうんですよね!
たぶん、主人公が通っていたデザイン系学校の同級生くらいの距離感で読み進めているからでしょう。
人となりをよく知っているくらいには近く、
ただ利害が生じない遠さで近況報告を受けているような感覚だと思います。
主人公の芯が無い故の強みを感じて、面白く読みました。