芥川賞作家 滝口悠生の連作短編集。
ラーメンとカレーというこれ以上ないほどにポピュラーな食べ物がタイトルに並んでいるため、
勝手にほのぼのとしてポップな作品をイメージしていましたが、これがなかなか癖のある本でした。
同じ出来事が夫婦それぞれの視点から語られていたり、
相手はこう思っているのだろう、あるいは自分は相手のことをこう思っているのだろうと思われているのだろう、
といった感情を推し量るような記述があって、それが面白さと独特さに繋がっています。
また、スリランカの歴史や、カレーの作り方に関する描写はやや偏執的に感じるほどで、
その偏執性みたいなものがある人物の性質にも関わるものだったりするので、気が抜けません。
文体までが仕掛けになっているような感じがあります。
とはいえ時折、見られる改行無しに捲し立てるような部分は、かなり読者によって好みが分かれるはずなので、
興味をお持ちの方は一度、書店や図書館等でパラパラと頁を捲ってみるのが良いと思います。
読み進めていると、コミュニケーションの様子と距離感に違和感を覚えました。
心理的距離と物理的距離が相互に作用し合うようなイメージが頭に浮かび、
そのまま最後の一編まで読む終えると、その違和感が意図して織り込まれていたものであったように
感じました。
独特な文章にたじろぎつつ、妙なひっかかりに読み進めると、
心にストンと落ちてくるような表現に気持ちが揺れる感覚。
そういえば「ラーメン」「カレー」と言えば先入観で中華そば的ラーメンと欧風カレーをイメージしがちだったけど
そういう一風変わったラーメンもカレーも当然あるよな、なんてことを思いました。