文庫でも665頁もある白石一文の大作。
20年も連れ添った妻が34億円もの遺産を相続していたことを知った中年男性が主人公。
遺産はほぼ手つかずだが、そのうち2億円のみ株式に投資され、高騰したその株価は今や16億。
合計48億円もの資産を妻が所有している。
何故妻はその事実を隠していたのか、そして何故2億円だけは投資されたのか。
リストラや左遷の憂き目に遭いつつも、ある程度幸福な家庭を守り続けた男を、
とてつもない額の夫婦間の隠し事が悩ませる。
この作品、めちゃくちゃ面白いです。
ミステリー要素もあり、勤務先での厄介な権力闘争もあり、中年ならではの悩みもあり、
そして何より面白いのは48億円という巨額でありながら、捉え方によっては、
それは単に夫婦間の隠し事であるということ。
宝くじ一等前後賞どころではない巨額なのに、結局のところ夫婦間の問題なのがポイント。
分厚い本なのに、次々と頁を捲る手が止まらない。
映像が頭に思い浮かぶような地方都市の描写も見事です。
ちなみにNHK BSプレミアムでドラマ化されたことがあるようですが、
番組ホームページのあらすじを読む限り、
この小説の内容も魅力もぶち壊すような改悪がなされているのではないかと思います。
現実離れした金額がトリガーとなり、変化していく中年男性の心象、意欲、活力。
新たな居場所を築いたというのに、彼の存在を必要とする過去の居場所。
男を取り巻く社会的な状況も人間関係も見事に描かれています。
冷淡さも熱意も、同じ人間が自然に持っている一面だという描かれ方が本当に面白い。
素晴らしい小説を読んだ、と大満足の一冊でした。