• 四十代夫婦が綴る書評と雑記
出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと (河出文庫)

著者はヴィレッジヴァンガードで店長を務め、2023年現在では高円寺にある「蟹ブックス」の

店主である花田菜々子さん。

タイトルが物語る通りの本ではあるのだけれども、私がこの本を読む前にしていた誤解が二つ。

1.まず「出会い系」といっても、恋愛相手や性交渉の相手を探す類の出会い系と、本書で花田さんが

利用する出会い系は少し様子が異なるということ。

単純に自分の交友関係を広げるためであったり、新たな刺激を求めて等、広範な意味合いでの「出会い」が

目的となっているらしい。

しかし、そこにも当然のごとくセックスの相手を求めてのユーザーもいる辺りが面白いです。

2.もう一点、私はタイトルから薦める相手70人と70冊、つまり70のケースが羅列されている内容を

イメージしていたのがですが、それは間違い。

この本はそういった分割された内容ではなく、

本を薦めるという試みによって他者の在り様、自分の心境等に著者が触れて、自らの人生を

新たな方向に進めて、元気を失っていた心に活力を取り戻していくような内容でした。

しっかりとこの本一冊を通してのストーリーがあるのです。

とはいえ、花田さんは元気を失っているはずなのにバイタリティがあるのが魅力的で、

少し辛い気持ちになる描写もありますが、こちらまで活力を貰えるような本です。

花田さんがヴィレヴァンで店長を務められていた時代からすると、私はその店舗に客として

行っていたのですれ違ったことはあるかもしれません。

また本書で薦められている樋口毅宏「日本のセックス」、武田百合子「富士日記」等は、

私も愛読しています。

そのため特に親近感を持って読むことが出来ました。

誰しも世間話ついでに友人なり同僚なりにオススメの小説や漫画をきかれたことが

あるのではないでしょうか。

その時に自分の心がどう動いて、どの本を薦めたのか。

自分の好きな本を薦めるだけではなく、きっとその時には相手の性格や状況も考慮したと

思うんですよね。

この本を読んでいると、自分も花田さんに一冊薦めてもらいたくなりますし、

また誰かに本を薦めたくもなります。

本を読むと心の中に世界が広がって、本を薦めると自分の世界が外に広がる、

それは素晴らしいことだと改めて感じました。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です