漱石の孫だからこそ書ける内容ではあります。
語られる事実もさることながら、心象も語り口も、血縁ならではの説得力がありました。
著者が生まれたのは漱石の没後であるため、
語られるのは主に漱石の妻・鏡子、漱石の子であり著者の母・筆子、
そして筆子の夫であり漱石の弟子・松岡譲のこと。
割と序盤で描かれる木曜会の面々に対する批判は、気持ちの良いくらいに忖度が無くて面白いです。
そりゃいかに高名な弟子たちとはいえ、著者は孫なのだから忖度など不要でしょう。
このエッセイによって、木曜会への印象、主に松岡譲への印象は大きく変わる人も多いはず。
印象が変わるといえば、やはり鏡子。
長年、漱石の悪妻とされてきましたよね。
でも、漱石のファンからすれば、英国帰りの夏目金之助による相当な責め苦を耐えた功績があり、
彼女がいなければ金之助が漱石となり得なかったかもしれないと考えると
悪妻と評するのは如何か、という認識もありました。
この本を読めば、鏡子の人となりが深く理解できて、やはり悪妻と呼ぶ気にはなれなくなります。
キャラクターが立っていて、漱石の妻はこうした人物でなくては、と妙に納得してしまいます。
少し率直過ぎる部分はあるのですが、漱石亡き後の夏目家を深く知ることの出来る面白い本でした。
タイトルもかなり気が利いていますよね。
「夏目家のそれから」、これしかないってくらいに良いタイトル。
ちなみに私は、夏目漱石の作品では「それから」が一番好きです。
この本、漱石ファンの方には是非読んでみて欲しいです。
色んな媒体で発表された文章が違和感なく収められていて、
口の悪さもクスッと笑える魅力ある一冊。