ちょっと慄くようなタイトルではあります。
ただ、読み進めれば、早々にフロイトが言う「父殺し」のような意味での
母娘の関係についての本だとわかります。
この本では、そういった父と息子ではなく、母と娘の関係を論じているのがとてつもなく面白い。
規範という観点での論が一冊通じて展開されるのですが、
様々な創作物が例に挙げられていることで間口を広げ、理解の浸透を助けています。
批評の場合、取り上げる創作物というのは一つの媒体に留まることが多いでしょう。
小説ならば小説、漫画ならば漫画というように。
しかし本書は必要があって、それらを横断します。
小説であれば「乳と卵」「キッチン」等々、漫画は「日出処の天子」「砂時計」「凪のお暇」等々。
さらにテレビドラマで「カルテット」「大豆田とわ子と三人の元夫」等の
坂本裕二作品等も論じられています。
時代も媒体も横断し、少しずつ母を殺す方法を模索していきます。
言語化の上手さとその豊富な例示で、なかなかに胸が苦しくなる題材にも関わらず
読み進める面白さがあります。
こうした評論・批評は概して手に取られづらいものかとは思います。
ただ、著者の名前が知られていること、とても洒落た表紙であることから、
ふと手を伸ばす方も多いはず。
とても面白い本なので、娘の立ち位置である方々にはもちろんのこと、
性別を問わず知識や見識のために広く読まれると良いなぁと感じました。