芥川賞作家、高瀬隼子によるとてつもなく惹き込まれる一冊。
短編5篇。その中に5種類の感情、5種類の恋愛が描かれているどころか、
もっと多様で多数の気持ちが織り込まれ、練り込まれ、
複雑なものを取り込んだはずなのにしっかりと味わえた読後感。
この著者の書く心の澱や濁りみたいなものは、
胸に手を当ててみれば読者にも心当たりがありそうなものです。
それらの言語化は難しくても、その言語化の難しさごと言語化してしまうような
強烈な力量を感じます。
性別や年代から、最後に収められた「いくつも数える」が特に印象的。
歳の差がある恋愛を題材にしたこの作品は、リアリティの深さや描写の面積等、とてつもない出来。
こんな芸当を短編で為すってのが恐ろしいし、短編だからこその凄みもあります。
意地の悪さや打算、自己嫌悪に自己弁護、
頭の中で繰り返すあれこれは程度の差こそあれ、共感してしまいました。
感涙するとか、前向きになるとか、そういった小説ではありません。
ただ、こうした心の動き方も好きで小説を読み続けてきたことを改めて実感しました。