新設された大学、
革新的な奨学金の労働に関する制度。
何やら昨今の世の中を思い浮かべてしまう、藤井大洋による小説。
パラレルな東京で繰り広げられる事態は、
政治的にも経済的にも時流的にもリアリティがあります。
しかし、頭でっかちなストーリーになることなく、
アクション映画のような躍動感も、
近未来SF映画のような景色の構成もあって、
娯楽性も担保されています。

登場人物たちの一部も感じているように、
この小説で問題とされている事柄は、
なかなか悪とも断じ切れず、
とはいえ善とも言い難そう。
その点にこそ思惑や信念の交錯があって、
奥行きが生まれていました。
やや多めのボリュームは、冗長や間延びではなく、
明確に満足感に繋がっています。

