直木賞作家である朝井リョウが、武道館ライブを目標に活動するアイドルグループを描いた作品。
アイドルに興味が無い人でもよく知る出来事もモチーフに加えられているため、
ストーリーに入り込みやすいと思います。
読んでいて、面白く感じたポイントが一点。
この小説には、青春を描くために主人公たちがアイドルとして設定されているというより、
アイドルという職業を描くために年齢や家族構成が設定されているような感覚があります。
そのため、青春小説というより、職業小説としての方が頭に入ってきます。
主人公はアイドル、幼馴染の男子は剣道少年という、ある意味ではどストレートな青春設定でありながら、
この本が描き出しているのは「職業」なのだと感じます。
現実に起こった出来事や事件、論争をも取り込んで、
職業としてのアイドルの在り方、その魅力も異様さも書き切っている。
そして、その存在を取り巻く関係者やファン、
あるいは誹謗や非難を楽しんでいる人々まで書くことで、
この職業や産業の素晴らしさ、その一方で歪で不健康な側面も示しています。
個人的な話にはなりますが、最近、写真週刊誌の酷い遣り口に憤りを覚えているため、
思うところが多い場面もありました。
どうしてこんなに不健康な世の中なのか、と落ち込むことも多々あります。
この本を読むことで不当で無自覚な攻撃に晒されている誰かが救われて欲しいと切に願っています。
登場するアイドルグループ「NEXT YOU」には様々な考えのメンバーがいます。
画一的に語られがちなアイドルという存在にも、それぞれの人間性や信念、動機があるはずです。
それはきっとどんな職業にも当てはまることなのに、
ついついそんな当然のことが忘れられてしまう職業は存在します。
仕掛けもあって、スリリングに進む楽しさもありました。
青春小説としても、職業小説としても読める良い本です。
届くべき人に届いて欲しいと思います。