坂崎かおるによる芥川賞候補作。
読む前は限られた舞台設定で繰り広げられるのかと思っていましたが、
そこから小説は大きな広がりを示唆します。
文字通りに海を超えるようなものを感じさせながら、
しかし、そちらには舵を切らず、やはり限られた舞台の方へ戻る。
狭い広いは、文学にとってどちらが良いというものではないのでしょう。
ただ、この小説の広く展開すると見せかけて狭く収束していく感覚が妙に気になり、
頭を巡らせました。

この狭く収束するということそのものにグローバルというものの
一つの在り様が示されているように感じたのです。
ただ、この広範と局所の往還を堪能するには本書は少し分量が少ないようには思います。
達さず終わるのが文学的情緒や余韻に繋がることも多いですが、
この小説に関しては、もう少し言葉や景色を欲してしまいます。
印象的な場面や言葉が多いからこそ、もう少しわかりたくなる。
あと、これはごく個人的な感覚なのですが、
最近、ちょっと性格に棘がある主人公の小説が増えているように思っています。
それを受け止めるのは少ししんどい。
そういうのは日々の生活で体感しているから、
読書中は解き放たれたくなっているこの頃です……。
日々の生活で棘に傷つけられているからこそ、
大好きな本の世界では棘を見たくない、
あるいはせめて棘を生やすに至った理由くらいは教えて欲しいんですよね。
うーん、この小説を読む時期があまり良くなかったかなぁ。

