1997年2月に発売。
私と同じ北海道出身、辻仁成の芥川賞受賞作。
実は私は当時、この本を発売早々に買いました。
主人公は青函連絡船での勤務から転職し、刑務所に勤務する。
その刑務所に小学校時代に主人公をいじめていた男が送られてくる。
この設定に興味を持ち、高校時代の私はとてつもなく期待してこの本を手に取りました。
そして、読み終えて、期待していたものと違ったことに落胆したのを覚えています。
本の内容は大部分忘れてしまっていましたが、その期待と落胆の記憶は残っていました。

それから30年近い年月を経て、帰省した際に自室の書棚でこの本を見つけて、
パラパラと気まぐれに捲ってみたら、妙に惹きつけられたんです。
あまり再読の習慣は無いのですけれども、これはもう一度読まないと後悔しそうだなと感じました。
そういう予感がすることって稀なので、何だか戸惑いつつ読み進めると、
どんどんのめり込んでいく自分に更に戸惑いましたね……知っているはずのストーリーなのに、
中年となった今では全く受け止め方が違ったんです。
高校生の頃の自分では気づけなかった面白さが多く含まれた小説だったのだと思い知りました。
あの頃の落胆も理由は推測できます。
多分、若さ故に期待していた決定的な衝撃が無かったからなのでしょう。
でも、年齢を重ねた自分ならば、このじわじわと忍び寄るような感情の乱れを
小説としては楽しむことができます。
中年らしく野球で例えるならば、乱打戦だけが面白い試合ではないのだとわかっていて、
投手がきっちりと最小失点で抑える場面も、進塁打でチャンスを広げる攻撃も
楽しめるようになったのです。
高校生の頃には反感に近いものすら感じたこの小説が、
月日を隔てた今では、とても質や密度の高い読書の時間を与えてくれました。
家を出て、盆や正月にしか帰ってこない息子の蔵書を処分せずに残しておいてくれた
両親に感謝しなければなりませんね。

