「熱帯」森見登美彦。
誰も最後まで読んだ者のいない「熱帯」という小説。
この「熱帯」を手にしたことのある作家の森見氏は沈黙読書会という催しにて、
作品の秘密を知る一人の女性と出会う。
彼女が語る「熱帯」の秘密を追及する集まりと、その探索の過程……
やがて、その探索は東京から京都、そしてこの世界から思索の向こうにあるような海域へと、
うねるように連なっていく。
といったあらすじなんですが、この小説は前半まではとてつもなく面白いのです。
しかし後半からは人によっては面白いかもしれない、といった不思議な方面へ。
何故、前後半でまるでサッカーW杯・森保ジャパンのシステムのようにガラリと変化したのか、
その答えはこの作品の書かれた経緯にあります。
前半まではWEBサイト上に連載されていたもので、しかし、途中で作者の生活に無理が生じ、
連載はやむを得ず中断。
その後、数年を空けて、書き遂げられたのが本作。
そのため、明確に前後半の雰囲気が変わっているのも当然といえば当然です。
この作品を読んでいるときに想起されたのは
村上春樹の名作「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」。
ただあちらの作品は二つの物語が関連し、互いの世界に影響を与えているような内容ですが、
「熱帯」は物語が次々に入れ子構造になっているような内容です。
そのためかなり、頭の中が混乱するんですよね。
森見登美彦という作家は優れた作家だと感じますし、好きな作品もたくさんあります。
読書の習慣が無い人にも薦めやすい作品も多いです。
ただこの「熱帯」という作品は、かなり読み手を選ぶというか、
読むとすれば森見登美彦のファンになってから読むのが良いと感じました。
ちなみに私はファンであり、新作を楽しみにしている一人です。