• 四十代夫婦が綴る書評と雑記
犬のかたちをしているもの (集英社文庫)

今や芥川賞作家となった高瀬隼子のデビュー作であり、第43回すばる文学賞受賞作。

セックスレス状態だった恋人が金を払ってセックスし妊娠させた女性から、

これから生まれてくる子どもを貰って育ててくれないか、と言われたら……。

私なら問答無用でNOですが、主人公には事情も思惑もあって、

その申し出に思い悩むのです。

主要な登場人物は三人。過去に卵巣の病気を患った経験を持つ主人公・薫と、その恋人・郁也、

そして郁也と金を介したセックスをして妊娠しているミナシロさん。

読むとわかると思いますが、この三人、どうにも好きになれません。

ただ、不思議なことに、好感度は低いのに三人の状況がどういう着地点を迎えるのか、

気になって、どんどんページを捲ってしまうのです。

恋人の浮気とその相手の身勝手な言い分に、振り回される立場である主人公ですが、

彼女には有り体な同情を拒絶するような気を張った様子があります。

誰かの優しそうな言葉や態度も、その裏にある想いを読み取ってしまい、

またそれが恐らく図星なのだろうことは読者にも理解できます。

また自身の本心も小説上では明け透けに語られます。

しかし、他者と自身を看破しても、その内容は対外的に言葉にされて発されるわけではありません。

内側で語られるものが読み手まで緩く蝕んでいく感覚があります。

どうあっても自分には訪れようのない状況、

理屈はわかるが理解できない想い、

そういったものの中に実は私には主人公に共感できることが一つだけありました。

本作のタイトルにもなっていることです。

思っているが言わないこと、言わないけれども言ってやりたくもなること、

自分の心の暗がりにあるようなものを改めて感じさせられた小説でした。

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