伊藤たかみの2003年出版の作品。今はちょっと手に入りづらいかもしれません。
ミリテリアスな小説だが、ミステリー小説ではないです。
主人公であるスランプ中の作家は、死んでしまった友人の影を追うように、
宿命に巻き込まれているのか巻き込んでいるのか数人と出会い彷徨う。
モチーフとして頻繁にビートルズが取り上げられ、
中でもアルバム「アビーロード」はそのジャケットにまつわる噂が重要な意味を持っています。
その噂は、フリークではなく一般的なファンでも聞いたことがあるであろうポール死亡説。
ミリテリアスではあっても、謎が解き明かされるわけではありません。
そういった点では不完全燃焼な感覚になる読者もいるでしょう。
ただ、私にとっては文章を読むだけで惹き込まれる作家。
20年以上前の作品とはいえ、どの時期の作品ともかなり毛色が違う印象ですが、
それでも胸に落ちてきやすく、心に馴染む文章でした。
謎解きを期待するのではなく、翻弄される様を描く言葉を楽しむ小説だと感じます。
学生時代、原宿のビートルズショップ「GET BACK」に足を運んでいた頃を思い出しました。
お金がなくて、そうそう高価な物は買えませんでしたが、
田舎者の私にはあの頃の原宿という街も含め特別な記憶です。
今はWEBショップになっているようですが、やっぱり実店舗でビートルズグッズに囲まれる、
あの感覚が好きだったんですけどね……。