父と子の間にある繋がりの小説、
とすればキャッチーなのかもしれませんが、
繋がりはまるで呪縛のよう……。
嫌な目に遭って部屋に閉じこもる息子に向かって、
父が襖越しに自分と父(息子からすれば祖父)との関係について語り続ける。
小説はこの息子に向けての体をとった語りで最後まで通されます。
タイトルからもわかるように野球好きには
とても伝わりやすい人名やエピソードが盛り込まれています。
特に私のような、年齢を重ねた中年の野球ファンにはドンピシャ。

この息子へ向けた父の語りが、自意識に正直で、どうにもあけすけで、
小学生の我が子に対するには突っ込みすぎな表現もそれ故に面白いんですよね。
コメディーではなく、シリアスの中のユーモラスな描写になっている。
父と子の繋がりを描いた感動的な小説、とはストレートにいかないところが田中慎弥の小説らしい。
距離感のバラつき、今風に言えばバグっているとでもいうのでしょうか、
そんな部分に着目して読むと、この小説の温度がページに触れる指先から伝わるようです。
強烈に面白いとか、激烈に感動するといったものではないかもしれません。
ただし、この著者ならではの特別な小説を読んだ気がしています。
どの年代でも距離感というものに変化が生まれた昨今、
私のような年代だと、そこには人並み以上に意識的な人が増えてきたように思います。
意識的にならざるを得ないんですよね。
そんな折に、距離に対する特別性が漂うこの小説が特に面白く、意味深く感じたのでした。

