阪神タイガースの2022年シーズン全試合ごとに歌が詠まれている、
というこの試みだけで俄然、興味が湧く一冊。
実は私は三十年以上にわたる阪神ファンでして、収められた歌の多くに共感で心が潤む感覚でした。
藤浪への入り混じる期待とジレンマ、原口への深い尊敬、佐藤への親心にも似た愛着、
挙げればキリが無い様々な感情は、
選手ごとにファンが読み取っているストーリーが巻き起こすものです。
私たち熱狂的な阪神ファンの心の機微はこの本の中で、見事に歌の形で結実しています。
また、2022年シーズンというのがね……初っ端から心が激しく揺さぶられる日々だったんですよね。
連敗に落ち込み、復調に心躍らせ、不安と歓喜がCSまで続いた激動のシーズンでしたから。
各試合ごとに勝敗が添えられているのも面白いですね。
連敗が続き、荒んでいく気持ちですら振り返ると、チームへの愛情表現なのでしょう。
きっと阪神ファンのみならず、プロ野球ファンの方々の共感も得られると思います。
そして短歌が好きな方々はこの野球チームへの思いがしっかりと歌の形になり、
込められている情念と情景が浮かび上がる様子を面白く読まれるんじゃないかなと思います。
随分、ファン心理で熱く書いてしまいましたが、この本が魅力的な歌集であるのは事実です。
こんな素敵な試みが打算ではなく、プリミティブな感情の発露として生まれているのも素敵です。
短歌に興味を持ったことがない野球好きには特に手に取ってみて欲しいです。
あるあるネタ的面白味も、自分の中で言語化できていなかった選手への思いも、
周りには理解されがたい熱情も、この本の中には存在していました。
きっと野球を応援する楽しさを改めて感じ、そして短歌の魅力も新たに見いだせると思います。