一人の匂い立つような妖しい魅力を持つ男と、その男に人生を左右するほどの影響を受ける女たち。
釧路を舞台に、表と裏を行き来しながら描かれる欲望は潤うことのない乾きのようなものを感じます。それが霧の中で寂れていく街の景色と相俟って、強烈に惹かれました。
実は私の故郷は、この短編集の舞台である釧路。
故にこの本の中で、見事に釧路という街の空気感が描写されているのがよくわかります。
あの土地に漂う潮の香りと肌触りまで伝わるようです。
短編は一作一作がとてつもなく魅力的なのですが、
連作として読むと、その魅力がさらに増します。
もちろん女たちの心理描写も見事。
強かで底の見えない影山博人という男に、
作中の女たちのみならず読者も湿地に足を取られるように惹かれてしまうはず。
表紙の写真は森山大道、これがまた本の雰囲気にピッタリ合っています。