角田光代の言葉と佐内正史の写真で切り取られた東京。
個人的には切り取るというより抜き出す、取り出すといった感じがしました。
そこには瞬間というよりも時間の流れが込められているように思ったので。
紡がれる言葉は東京のどこかに暮らす誰かの物語なんですけど、
何だか自分のことをありありと語っているようなリアリティや手触りがあって、
描き出される心象からその時々の温度まで伝わるようです。
私の世代にとっては、佐内正史という写真家は特別な存在で、
CDのジャケット写真だったり、写真集などで影響を受けた方も多いはず。
私は特に太宰治の「女生徒」に佐内正史の写真を添えた本が強く記憶に残っています。
日常的な風景の淡さや移ろいを収めたような印象は、この本でも変わりません。
血や肉という意味での生々しさではなく、息遣いや温度の生々しさを感じる一冊でした。
普段、あくせくと目的地だけを目指して歩く東京の景色を、
心に隙間がある状態で眺めたくなりました。
びっちりと詰め込まれた荷物を少し整理すれば、少しばかり風通しの良い心持ちに
出来るかもしれません。
本書の途中で出てくるこの書名、
最後まで読み終えると、その素晴らしさがしみじみと感じられます。