砂川文次の芥川賞受賞作。
主人公のサクマは自転車に跨り、メッセンジャーとして生計をたてています。
同棲相手に苛つきながら、同じような一日を繰り返す日々ではありますが、
自分の仕事が年齢を重ねて体力が落ちると続けられないものだと感じてもいました。
そんな日々も同棲相手の妊娠や、サクマ自身の苛烈な癇癪のような衝動が引き起こす出来事があり、
大きく変化していきます。
序盤のメッセンジャーの仕事についての細かい描写は、作者の大きな武器ではありますが、
やや頭に入りづらく感じました。
しかし、サクマの内面や思考が描かれるにつれ、どんどんと小説にのめり込んでいきます。
コロナ禍の都心が舞台になっているため、街の雰囲気、マスク着用の描写、
メッセンジャーから見たウーバーイーツ等に対する心象は強烈にリアリティがあります。
時代性をしっかりと捉えながら、それと関連することも、あるいは生来の気質によるものも
混ざり合って鬱々とするサクマの描かれ方に、読んでいて深く感情移入してしまいます。
芥川賞受賞作という肩書きに相応しい、素晴らしい小説でした。
硬質で高品質な、純文学らしい純文学を欲している方に特におすすめです。