直木賞作家である桜庭一樹の書き下ろし作品。
この作者にしては、本作は随分ストレートにエンタテイメント性を重視している印象でした。
元オリンピック・テコンドー代表と、元警察官のバディもの。
この主人公である二人の探偵、どちらもキャラクターがしっかりと確率されています。
ミステリー愛好家やサスペンス好きからすると、少し物足りない分量かもしれませんが、
ダークウェブが巻き起こす混乱は、最近世間を騒がせている問題とも通じ現代性があります。
また探偵事務所がある新宿区百人町の描写も活き活きとしていて、
数々の名作探偵ドラマ同様、主人公が生きる街の景色が頭に思い浮かびます。
「相棒」のようなテレビドラマが分かりやすい例ですが、バディものって、頭脳派と肉体派、
理性派と直感派のように、担う特徴を分けた上で、
正直なところ、主役性のパワーバランスは傾いていると思うんですよね。
そこには上司と部下、先輩と後輩、兄貴分と弟分のような関係性があって主役は一方というケースが多い。
この「紅だ!」、紅というのは元オリンピック選手の方の名前なんですが、
先述の分担でいえば「肉体」「直感」を担う紅の方が主役といった印象はありません。
ほぼ半々の感覚で二人が主役性も分け合っているように思います。
この辺りが新鮮で気持ち良く、ページが進む要因かもしれません。
過去の名作を思い浮かべても、イーブンなバディの感覚って、意外と珍しいですよね。
この一冊でしっかり完結しているのですが、残されている謎もあり、
また強固なキャラクター性があるので、シリーズ化や、その先には映像化も
視野に入っているのではないかと感じました。
気軽に読めて、意外な展開もあって、映像として頭に入ってきやすい文章。
探偵ドラマが好きな方にお勧めしたい一冊です。