結婚詐欺師の姪と、その詐欺師に騙された女、二人の旅路。
妙な関係性の二人は、性格もまるで違うし、女子高生と三十代で世代も違います。
この二人、ちょっと誤解を生みそうな言い方になってしまいそうですが、
私は読んでいると時々嫌いになりました。
しかし、二人同時に嫌いになることはないのです、場面ごとにどちらか一方を嫌いになるという感じ。
それがこの小説の面白さに繋がっていると思うんですよね。
どちらかが全面的に正しいわけでも、一方的に悪いわけでもない、ただ意見や行動に差が生じる。
その差に対して、意識的な書き方が成されているため、嫌いになった気持ちがそのまま持続することは無く、
読書を通じて二人の旅路に付き合う気持ちが失せることはありません。
終盤のあるシーンでは、吉本ばなな「キッチン」を思い出しました。
無論パクリだとかいう俗なことではなく、場面の素敵さに関してです。
ごく身近な食べ物から生きる活力が湧くのは、読んでいて好ましい。
容姿や服装からの先入観を、激しい肯定や否定で抱え込んだり遠ざけたりするのではなく、
小説の要素として強かに取り入れる辺りが、この作家のカッコ良さだと
前作「ブラザーズ・ブラジャー」から個人的には感じています。
配役が頭に浮かぶようなロードムービー的面白さもあり、文章としての魅力もあります。
爽やかな読後感が夏にぴったりな一冊ですよ。