劇作家・石原燃の小説デビュー作。
母を亡くした主人公は、母の友人と共にブラジルへと旅に出る。
その友人自身もまた、夫を亡くしたばかり。
喪失と、喪われた人の想いに向き合う旅路。
淡々と書かれているような場面にも、旅情と感情が滲んでいるように思います。
奔放に生きる人の心の内、傍若無人な振る舞いに落ちてしまった人の寂しさ、
喪われた人々もまた誰かや何かを喪っているという当たり前の事実に
心が揺さぶられ、小説の中に引き込まれていく感覚があります。
個人的には舞台がブラジルであることが良かったと思います。
主人公にとって特に所縁のない土地で、喪失と向き合う。
また母の友人にとっては長らく訪れていない故郷で、同じく喪失に向き合う。
どうしたって、この先もそれぞれの人生を生きていかなけりゃならないわけで、
その重大な通過点が、普段の人生を営む場所から遠い土地であることには
運命めいたものを感じました。
凄く上質なロードムービーを自分のペースで心に染み渡らせることができた気持ちです。
読書の一つの醍醐味ですよね。
それほど長い小説ではないので、気になっている方は是非読んでいただきたいです。