文豪・坂口安吾による推理小説。
不勉強なことに、安吾が書いたからには推理というよりは
文章そのものを楽しむ作品なのだろうなと思い込んでおりました。
これが読み進めてみるとビックリ!
もちろん文章の面白さは当然あるのですが、事件にぐいぐい引き込まれていくんです。
次々に起こる殺人、一癖も二癖もある怪しげな登場人物たち、
気づけばすっかり読者自身が推理を楽しんでいるはずです。
裕福な屋敷に集った小説家、詩人、弁護士、画家、女優に素人探偵等々。
多士済々というには躊躇するような敬う気になれない人間が目立ち、
疑い深い人物も多過ぎて、誰を疑ってよいのやら……。
また、こうも個性豊かな人物ばかりが登場すると、
その人物像に引っ張られて、肝心の筋がしっちゃかめっちゃかになりそうなものなのに、
さすがは坂口安吾、人物描写も展開も見事なものです。
途中から現れる刑事たちの描写もしっかりしていて、容疑者たちに埋もれません。
多数の殺人が起きて、その解決の糸口になるのが”心理”というのも素晴らしい。
推理小説としての完成度を、トリックのみならず安吾の文章が高めているのです。
これは読者が犯人捜しを楽しむタイプの推理小説でもありますから、
あまりトリックや犯人には言及しませんが、坂口安吾の小説を読んだことがある方は、
是非この本も読んでみてください。
きっと私のように驚くと思いますよ。
数々の推理小説の大家に絶賛されたのも頷ける名作です。