伊藤たかみの短編集。
この作家が書く何気ない会話や想いが、すごく好きなんですよね。
沸き立つような感情は心を揺さぶるものでしょうが、
漏れ出るような想いも心に染みて熱くまります。
もう疾うに終わってしまった恋を思い出すのは、
寂しい時や悲しい時だけではなくて、
幸せな時期や希望を見出している時だからこそ
思い返すことはある。
そんなことを感じながら、どの短編も面白く読みました。
語られる思い出話がすごく親密な空気を持って伝わってくるのは、
登場人物の多くが好意的に受け入れやすいキャラクターだからだと思います。
ただ全7編の主人公が似通った人物像というわけではありません。
短編集ならではのカラフルな読み心地も味わえます。
打ち震えたり落涙したりするのではなく、
誰かの小さな優しさや、ひと時の切なさに心を浸したい時があると思います。
そんな時にお勧めしたい本です。