滝口悠生の芥川賞受賞作。
通夜に集まった親族たち、あるいは来なかった親族も描いた作品にこの秀逸なタイトル。
死んだ者ではなく、死んでいない者に焦点が当たります。
しかし、生きている者ではなく「死んでいない者」なので、やはり死が意識されているのでしょう。
多くの人物にスポットが当たりながら、親族という血縁だけでは括られない集団としての
意味合いは、縛りとも繋がりとも受け取れる形で作品全体に織り込まれています。
客観と主観の隔たり、本音と建て前の差、人種や文化の違い……
多くの差異を読んでいて感じました。
ただ、激しく対立構造を描くのではなく、淡々と当然のものとして書かれている感覚がありましたね。
淡泊に、冷ややかなまでの距離感で書くことによって、
感情が過不足なく伝わってくるのは不思議なようでいて、そりゃそうか、とも感じます。
激高していたり白熱していたりする人の話って何が何だか分からなくなったりするのと、
ちょっと似ている気がします。
個人的には、もう少し展開のあるラストを期待したのですが、
とはいえ最後まで面白く読みました。
文庫版には短編「夜曲」も収録されています。
とても短い作品ですが、こちらも面白いですよ。
むしろこちらの方が好きでした。
ハードカバーで読んだ方は、是非これも読んでみてほしいです。