鈴木涼美による、歌舞伎町と思われる街を舞台にした小説。
その界隈を題材にしたノワールものというのは多いし、私も小説、漫画、映画と親しんでいますが、
この作品はホストクラブで出納係として働く女性の目を通して、
ホストの振る舞いやその客である姫と呼ばれる人たちの心情、
勤務先としても居住先としても街に身を置く自身の心が語られています。
この視点の在り様というのが興味深かったです。
どこか突き放しているような冷静な部分がありつつ、自分がその街に内包された存在であることに
自覚的な感覚が通底しているんですよね。
時間軸が前後するような語りや、少し装飾過多に思える文章に、
最初は読みづらさを感じたのですが、
そのスタイルが自分の中で主人公の心理的なイメージと一致し始めると、
受け入れやすくなりました。
ホストに貢ぐ女性がその身を売ってお金を稼ぐために大久保公園周辺に立っている、なんて報道を
目にすることもありますが、そういった昨今の新宿近辺の水商売を巡る事情も
この小説の要素になっています。
割と題材としてはオーソドックスに扱われる業界を、少し変わった視点と語り口で捉えることにより
小説として読ませる魅力が備わった作品でした。
↓タイトルの「トラディション」はここからでしょうか。