今では芥川賞作家となった九段理江の過去の芥川賞候補作「Schoolgirl」と、
デビュー作でもあり文學界新人賞受賞作でもある「悪い音楽」を併録。
「Schoolgirl」というタイトルからある作品をイメージする文学ファンは多いでしょうね。
きっとご想像通り、この作品は太宰治「女生徒」をモチーフにしています。
語りの形式も太宰ファンならすぐにピンとくるでしょうし、
作中にはストレートに「女生徒」も出てきます。
社会派で主張が強いYouTuberとして描かれる女生徒は、現代的でありながら普遍的な若さもありました。
分かり合えていないようで通じ合っている部分もある関係性は、
世代間の差、立場の差、優先順位など、様々なギャップについて思考を突き付けてきます。
もう一編「悪い音楽」については、ほぼ共感できる部分がないのに
理解はできるという面白さがありました。
心というものに対する隔たりを強烈に感情的に書くという構造の妙、
導入部から主人公の精神的な特徴が伝わる描写、
決して気分の良いストーリーではないのにどんどん惹かれる、あるいは曳かれる感覚でした。
ラストが少しスマート過ぎるようには思いましたが、
芥川賞受賞作よりもこの作品の方が個人的には楽しんで読むことが出来ました。
「東京都同情塔」でのAI活用の部分が強く話題になり過ぎたこともあって、
やや特異で急進的なイメージをこの作家にお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、いくつか読んでみると、現代的なモチーフを近代文学的な中編に
織り込むのが得意な作家という認識です。
「東京都同情塔」で興味を持たれた方は、この本に収められた二編も読んでみてはいかがでしょうか?
特に「悪い音楽」の方が受け入れ易さと受け入れ難さを同時に味わう面白さを持った作品なので
おすすめです。