• 四十代夫婦が綴る書評と雑記
カーテンコール [ 筒井 康隆 ]

筒井康隆の最後の作品集になるとされている一冊。

作品に世相や老いに対する心情が滲んでいるように感じます。

元々、モチーフに社会批判を盛り込むことは多い作家だと思いますが、

掌編小説集ということもあってか、作品内でのそうしたモチーフに関する記述の割合が多く感じられ、

傾向が顕著に出ているのではないでしょうか。

老いや死への記述が目立つのは、作家自身の年齢を考えれば当然なのでしょう。

印象的なのは「川のほとり」、私小説的であり、息子に先立たれた感情が強く切なく伝わります。

「プレイバック」も筒井康隆ファンにとっては印象深いですね。

筒井康隆にしか書けない上に、今の筒井康隆が書くからこそ意味を持つ掌編。

総じて作家のファン向けの作品集ではあります。

ただ、こうして人生のキャリアの最終盤と思われる時期でも、

作家で在り続けるバイタリティに尊敬を覚えました。

正直なところ、掌編で魅力が発揮される作家ではないように感じますが、

もう少し長い分量の小説を読みたいと願うのは年齢を考えれば酷なのかもしれません。

これまで十分に面白い小説を発表し続けてくれたことを思えば、

この作品集のタイトルは切ないが受け入れるしかない言葉でもあるのでしょう。

この本の中に「野望山馳参寺」という言葉が出てきたのが、とても嬉しかったです。

もうずいぶん昔になりますが見てたんですよね、NHKの「ソリトン 野望山馳参寺!」。

筒井康隆と久宝留理子がレギュラー出演していて、私は久宝さんのお顔がとても好きで

かなり楽しみにしていました。

当時は、久宝留理子の横にいる住職役のおっさんとしてしか認識していませんでした……。

お恥ずかしい……。

そうそう、この本ではそういった芸能活動的な部分に対してのご本人の言葉にも触れられます。

次の一冊を淡く望みながら、魅力的な過去作を再読しようと思っています。


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