一人の漁師の死から、国家を揺るがす逃走劇が始まる。
主人公は漁師の娘であり社会学者、続編にあたる「キトラ・ボックス」にも登場する宮本美汐。
逃走を描く冒険活劇として読むと、この美汐を手助けする面々のキャラクターがしっかりと魅力的で、
それぞれの矜持や在り方が示されることで血の通った人物像が伝わります。
そして冒険せざるを得ない理由となる、国家を揺るがすほどの秘密が、
現代の日本にとっては、あるいは世界にとっても非常に深刻さのあるものでした。
タイトルのアトミックからも分かる通り、きっと今の日本人がある時期を境に深く考え込むようになった事柄。
この秘密、フィクションではありますが、さすがのリアリティ。恐ろしくなります。
つい先日も、”アトミック”がらみの某政治家の発言がニュースになっていましたね……。

実は続編の「キトラ・ボックス」を先に読んでしまったのですが、
どちらもとても面白い作品でした。
池澤夏樹の広い守備範囲がこれでもかと活かされた小説です。
物理、古典文学、地域社会、様々なエッセンスが盛り込まれつつ、
見事な配合で、質の高い冒険小説になっています。
活劇に心躍らせつつ、戦後日本について考え込みつつ、夢中で読み耽りました。
あと一か月足らずで終戦記念日、小説の面白さに感嘆しつつ、
日本が辿った歴史についても改めて考え込む機会になりました。

