• 四十代夫婦が綴る書評と雑記
生きのびるための事務 [ 坂口恭平 ]

自己啓発的な内容ということで個人的には少し身構えていたのですが、

漫画ならではの読みやすさでスルスルとページが進みました。

ただ、では受け入れやすい、取り入れやすいかと言うと、ちょっと疑問は生じます。

作者の体験に基づいているので事実がベースなのでしょうが、どうにもトントン拍子にことが進み、

あれ、出会いに恵まれ過ぎちゃいないかと思うのです。

そして、それが事実だったことこそが再現性の無さに繋がるんですよね。

これは稀有なケースだったのではないか、と感じてしまうのです。

もちろん計画として重視すべき事柄、その計画を実現するための行動力等々、端的に書かれていてわかりやすい。

しかし、自己啓発として捉えた場合、肩透かしを喰らう人が多いのでないでしょうか。

まずは

・この話が根本的に組織人、とりわけ会社員に向けたものではないこと

・そして主人公(つまり作者)が組織に属する生き方は理解出来ないと線引きしている気配があること

・最後に行動力あってのこととはいえ出会いの幸運度が強すぎるので再現性に疑問が湧くこと

自己啓発書を数冊読んだことがある人ならば、なんだか放り出された気分にもなるかもしれません。

何かに縋りたくて、どうにか変わりたくて、自己啓発書を手に取ることが多いでしょう。

そういう人にこの本が向いているとは思えません。

では、誰に向いているか、どう楽しめば良いか。

まず芸術家などの自由業で生きていくと心に決めている人は読むと良い。きっと気づきがある。

では、それ以外の人がどう楽しむか。

坂口恭平という個性的なアーティストの立身出世、その序盤をクローズアップした漫画として楽しむ、

それが良いのではないでしょうか。

これはもしかしたら、受け取られ方次第では、

若人を良くも悪くも不安定な道に誘導する役割を果たす本かもしれません。

……と、ここまでブログの下書きをしていたのですが、

もっと個人的に、中年としての追記。

私はいわゆる中年の危機を感じる年頃です。

人生に思い悩んで、読書に救いを求めることも多いです。

そういう人間として、もう少し正直な感想を付け足します。

うーん、自己啓発書って再現性が重要だと私は思っていて、

そういう点じゃこれは自己啓発書として手に取るものじゃない気もします。

生きのびたい、と思った時にタイトルに惹かれて、この本を読むと、

組織人とは相容れない存在の主人公を見て複雑な心境になる方もいるでしょう。

私はこの本を読んで、少しだけ悲しかったのです。

組織というものに苦しむ中年の自分や友人たちの人生と本書の間には

きっちりと線が見えた気がしたのです。

そういうわけで、私はこの本を坂口恭平という個性的な人物の自伝として楽しみました。

生きのびるって、けっこう難しいですよね……。


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