• 四十代夫婦が綴る書評と雑記
パーク・ライフ (文春文庫) [ 吉田 修一 ]

映画「国宝」の大ヒットでそれまで以上に名前を知られることになった吉田修一の芥川賞受賞作。

映像化に恵まれている作家というイメージがあります。

映画「悪人」「横道世之介」は面白かった記憶があるし、他にも幾つも映像化されていますよね。

吉沢亮、妻夫木聡、高良健吾、渡辺謙、等々、映画好きに愛される俳優が主演に名を連ねている気もします。

そんな作家ではありますが、この2002年の芥川賞受賞作はまだ映像化されていないはず。

この小説は心の機微と穏やかな日常を見事に書き切った素敵な作品ではありますが、

いわゆる純文学らしい小説であり、映像的な見映えや衝撃には繋がりづらいことでしょう。

私にとっては、その地味さはこの小説の価値を損なうものではなく、魅力だと感じますが、

では莫大な利益と話題性を狙える映画やドラマになり得るかというと、まぁ難しいだろうとも思います。

反復に近い日常の中で、小さな出会いや気づきが気持ちの動きを積み上げていき、

爽やかに小説が閉じられる。

最後のページの後にも続く、悪くない日常を示唆された気分になり、僅かに心が軽くなります。

そういった小説が芥川賞を受賞することを好ましく感じますし、

こういう小説が大ヒット映画をきっかけにして、再び注目されると良いなぁとも思います。

文庫本にもう一編、収められている作品も面白い。

ただし、こちらは晴れやかな気持ちにはならないでしょう。

ただ、こちらもなんとも妖しい純文学の魅力があります。

よく純文学とはなんぞや、きっと退屈で思わせぶりな小説のことなんでしょ、なんて風潮がありますよね。

そんなことはない、と否定する気は無くて、退屈で思わせぶりなことだって多いと思うのです。

でも、それがつまらないってこととイコールではない。

退屈で思わせぶりだから、魅力的だったりもします。

近年で最もヒットした実写映画の原作者が、

かつて最も有名な文学賞を受賞した作品がこれなのだ、という事実もまた面白いし、

あの映画もこの小説も面白いと思えるような間口の広さを持っている人生の方がお得だよな、と

私は中年になってから強く感じるようになりました。

ちなみに表題の「パーク」は日比谷公園のことですが、

作中には市ヶ谷がよく登場します。この記事の写真は市ヶ谷駅付近で撮影しました。


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