ヒットメーカー伊坂幸太郎、当然、有名作品がたくさんありますが、
かなり趣の異なる作品を書くイメージがあります。
多分、著作の中でも、人気のある作品の傾向はあるのではないでしょうか。
殺し屋シリーズはどれも人気でしょうし、
「ゴールデンスランバー」のようなスリリングかつ
人間の情や繋がりを感じさせる作品もファンが多いでしょう。
個人的にはそういったものと随分毛色が違う作品には
「あるキング」や「SOSの猿」あたりが挙げられるように思います。
どこか童話や寓話の気配があり、教訓めいた意図を感じさせる。
伊坂幸太郎作品の作品分布図を作るとすれば、
この「楽園の楽園」もそれらに近い座標に位置しそうに思います。

かなり短いページ数で挿絵もある、ウィルスの蔓延やAIも登場する時代性、そして西遊記がモチーフ、
こういった点から本書は手に取りやすいし読み易い。
ただ、伊坂幸太郎作品の愛読者である私からすると、
新たに伊坂幸太郎の小説を読んでみようかなという人に薦めたいのは、この本ではないです。
楽しく読んだのですが、
伊坂幸太郎にはもっと面白い作品がたくさんあるよなぁ、と思ってしまうんですよね。
きっと、先程の分布図の話でいうと、
寓意や教訓のようなものを感じる座標の辺りはあまり私の好みではないのだと思います。
寓意を持たせて少ないページ数で、となると、
キャラクター造形が際立ったものになっていく気がします。
この人はこういう性格でこういう格好をしていて、こういう思考をします、と早い段階で知らされる感覚ですかね。
それが功を奏する作品もあると思うんです、
例えば週刊少年ジャンプで連載するなら主人公は、そうやって造形するべきでしょう。
でも、私は愛読者としては徐々に登場人物を知っていきたいのです。
少しずつ知って、知った気になっていたことにも気づかされて、そうやって愛着を持ちたい。
うーん、これが伊坂幸太郎も少年ジャンプの王道漫画も愛読する、
中年の気持ちです。

